「人生って不思議だ」

 子供の頃からサリーの遊び相手は空想の中の世界(サリーは彼女自身がつけたあだ名)。ジョークばかり言うA型の父と、羊毛のようにフワッとしたO型の母のもと、4人姉弟の2番目で両親に甘えるのは苦手だった。友達は少なかったが、おじいちゃん子だった彼女、大好きな祖父が居ればそれで十分幸せだった。夢や希望をいつも持っていた。

 親の仕事で引越しのため3歳で父の実家を離れ、祖父とも離れ離れになる。彼女の記憶はそこで一旦途切れている。母の実家に引越しをしてから9歳になった彼女は、相変わらず心を開ける友達は少なかった。茜色の夕日の中、小学校から帰ってくると、家の前の畑で落とし穴を作ったり(弟をおびき寄せて落とすため)、井戸に石ころを投げ入れたり (この中には不思議の国があると思っていた)、そしていつも祖母に叱られていた。でも祖母は1番の味方だとも思っていた。黄昏時になると「ご飯だよー」と畑まで呼びに来てくれた。

 彼女は孤独の中で、想像力の豊かな、しかし周囲と上手くコミュニケーションがとれない不器用な少女に育っていった。そこで不思議な力を手に入れる。相手の心が見えたり、たまにお化けが見えたり、やたら子供と猫に好かれたり。

 大人になった23歳の彼女に衝撃的な事件が起こる。祖父が死んだ。次いで祖母も死んだ。胸が張り裂けそうでもうこのまま死んでしまうんじゃないかと彼女は思った。現実が受け入れられず空想の世界をさまよい続ける。祖父はいつまでも「可愛いサリーよ、お前はクレイジーじゃ」と笑って言い続けてくれるものだと思っていたし、祖母に「サリーよ、ちょっと肩を揉んでくれ」と頼まれたとき後でねと言ったまま、してあげられなくなるなんて彼女は思ってもみなかった。かつて奇跡のような日々を思い出し、当たり前なんてない、今を生きよう、彼女はそう誓った。

 「死んじゃいけない」26歳の彼女は人生の目的を発見する。少しの夢と希望を携えて、周りの誰かを今よりちょっとだけ幸せにしよう。

 それ以来、誰かの人生を少しだけ幸せにするお節介を焼くことが楽しみになる。見つかっては意味がないと、人知れず周りの人生に干渉しては「魔法」と称した作戦を考え実行していた。その対象は、近所の老婆(昔はスナックのママで性格はきつめだが優しい)、同僚(随分前に退職してしまった女の子)、友達(年は上で料理が上手)、ノラネコ(昔飼っていたネコのミュウと重ね合わせていた)、家族(最近顔を出せていない)、大人になってからできた仲間(老若男女年齢関係なし)だった。

 作戦を立てては実行する日々、周りは少しだけ前よりも幸せになった。彼女は楽しくて人生は薔薇色、世界は順調に思えていた。そんな日常が徐々に混乱していく。誰かの答えはわかるのに自分の答えがわからない、誰かのためならできるのに自分のために真正面から向かうことができない。彼女は、誰かのこととは裏腹に自分の人生にはまるで引っ込み思案だった。

 ある日、彼女の魔法は見事に失敗して友人を酷く傷つける。彼女は心臓が破裂しそうで、世界からかくれんぼするように、また一人の部屋に閉じこもって空想の世界に逃げた。

 気持ちの中で色んなものがひしめいて長い間彼女は苦しんだ。かつて存在した心地の良かったあの時間はもう戻ってこない、けれど失ったわけではない。他人の人生を少しだけ幸せにすることは楽しいけど、自分の幸せを見つけることはきっともっと楽しいはず。少しずつ現実の世界に戻ってくる、彼女は恐る恐る自分の心の扉を開いた。そこには子供の頃のサリーが怯えた顔でこっちを見ていた。「サリー、もう大丈夫」彼女はそう伝えた。

 彼女を助けてくれたのは自身から生まれた音楽「解放」だった。過去の自分を解き放つ魔法が、このアルバムには詰まっている。

「あなたは奇跡を信じますか」